マンガ好きの男子ならば一度は「AKIRA」(アキラ)というタイトルを一度は聞いたことがある思います。
「AKIRA」の作者が大友克洋(おおとも かつひろ)氏です。
「AKIRA」というタイトルが大友克洋 氏が前面に出がちですが、実は『大友以前・大友以後』と言われるほど日本のマンガの画風・画法の変換点を作り、日本のマンガの進化に大きな影響を与えた人物です。
そのすごさについて今一度まとめておきたいと思います。
photo credit: uzaigaijin via photopin cc
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大友克洋のすごさとは何か?
現状であらためて「AKIRA」を読むと「描画が細かいけどそれほど新しくないな〜」と思うのではないでしょうか。
こんな呟きがTwitterにあり、話題になりました。
まったく同じ文脈で先日、大学生の漫画好き男子に「大友克洋の何が凄いのか全然わからない、『AKIRA』も『童夢』も他の漫画によくあるシーンばかりじゃないですか」と言われて立ちくらみがした。本当に世界を変えてしまった才能は、その後の世代からは空気のように透明な存在になってしまうのだ。
— CDB@初書籍発売中! (@C4Dbeginner) May 6, 2015
「大友克洋の何が凄いのか全然わからない、『AKIRA』も『童夢』も他の漫画によくあるシーンばかりじゃないですか」の一文に実はそのすごさが逆説的に凝縮されています。
なぜって?
「AKIRA」が刊行されたのは1984年なので、実は約30年前の作品なのです。
現代のマンガが大友克洋 氏の影響を多大に受けた画風・画法・コマ割等になっているからこそ、当然現代のマンガに慣れた目で見ればおのずとそのような感想になります。
逆に言えば30年前のマンガを見て、今のマンガと同等に比較できる時点で大友克洋 氏の作品がどれだけ先駆的であったかが分かります。
では大友克洋 氏の画風・画法・コマ割等のすごさをもう少し掘り下げてみます。
- 対象を知り尽くしてから描く。
- フラット(均一)な線で面を構成させる画風
- 映画のような鳥瞰的な視点の構図を多様
- 脳内でレイトレーシングしたようなリアルな光の描写
対象を知り尽くしてから描く
大友克洋 氏は建物を書く場合にまず何するかというと、その建物の建築工法について理解します。
ええっ、工法!?
「ラーメン作るためにまず小麦を育てる」というTOKIOの「鉄腕ダッシュ」的なアプローチに少しめまいを覚えます。
描く対象のことを知らないと嘘を描いてしまい、作品に魂が込められないから描く対象のことを知り尽くすのです。
作品に対する実直な態度はが感じ取れます。
フラット(均一)な線で面を構成させる画風
大友克洋 氏が描く絵には均一な太さの線が使われます。
劇画のように線の太さの強弱により躍動感を出すのではなく、均一な太さの線を積み重ねることで面を構成します。
線の太さによる強弱がないため、絵に対する躍動感は薄れますが写真のように一瞬の場面を切り取った絵になります。
極細線で一コマ内に多くの情報を描きこむのも大友克洋 氏が編み出した技法です。
それまでのマンガの流れが情報をデフォルメ(アイコン化)し、情報量を減らすことで主題を明確化したのに対して写真のような写実的な画風は当時新鮮でした。
この情報量を多く書き込む技法の影響は「攻殻機動隊」を書いた士郎正宗 氏にも受け継がれています。
ちなみに当時の印刷技術では細かすぎて鮮明な印刷が困難であったために、「AKIRA」のマンガ単行本はB6版サイズではなく大判サイズになったそうです。
映画のような鳥瞰的な視点の構図を多様
大友克洋 氏は「映画好き」を自称しています。
「AKIRA」の構図を見ると上空など遠目から対象を描いた映画のワンシーンのような構図が多様されています。
それまでのマンガの構図に対して俯瞰的な構図は映画をみているようで新鮮味がありました。
この俯瞰的視点は作品全体のスケール感をより大きく表現できるメリットがある反面、どうしてもコマ間の繋がりが分かりにくくなりストーリーのテンポを悪くする傾向があります。本人もそのデメリットを理解しながら、新しいマンガの在り方をエネルギーを込めて提案したかったのだと思います。
脳内でレイトレーシングしたようなリアルな光の描写
窓からさす光とその影、ドアを少し開けた蝶番(ちょうつがい)部分から漏れる細い光、など3Dツールでレイトレーシングした画像を元に書いたようなコマが多数あります。
上述の「対象を知り尽くしてから描く。」とも関連することですが、嘘を描きたくないという思いから描く対象をよく観察した上で書いた結果、レイトレーシングしたような絵になったのだと思います。
今でこそ「GANTZ」のようにマンガの作成に3Dツールを使うことがでてきましたが、3Dツールを使わずに影や光の反射を脳内で計算して描いていたのは神業だと思います。
息子はイラストレーターのSHOUEI
大友克洋 氏の息子のSHOHEI(大友昇平) 氏はイラストレーターでです。
漫画家とイラストレーターと伴に絵を生業(なりわい)としています。
敢えて漫画家ではなくイラストレーター、画風も大友克洋 氏が均一な線による描画に対して複数の点により面を構成する画風など類似性を保ちながらも独自性をもっています。
SHOHEI 氏のイラストは大友克洋 氏の絵と同様に初めて見た時に大きなインパクトがあります。
想像ですが、幼少期から父親である大友克洋 氏の絵を見てきたことで自然と備わった才能だと思います。